【南屏晩鐘】
  南屏晩鍾は、あるいは西湖十\景の中でも最も早くに現れた景色かもしれない。北宋末にはすでに赫赫たる名声をもつ画家張択端が『南屏晩鍾図』を描いている。この絵は彼の『清明上河図』のように著名なものには遠く及ばないが、それでも明代の『天水冰山録』中に記載されている。南屏山は西湖の南岸に連なっており、標高は100メートルを越えないが、山裾は長いもので1000メートルあまりに達する。山には奇妙な形をした石がそびえ、木々の緑を眺めて満足がいく。晴れの日であれば、山一杯に満ちたもやが晴天白雲に引き立てられて大変に美しくうっとりさせられる。雨天の日であれば、雲が覆い隠してしまい、山並みはふわりふわり舞いはじめ、かすかでとらえどころのない、付かず離れずといった様子である。後周の顕徳元年(954)、呉越国主の銭弘俶が南屏山のふもとに仏教寺院の慧日永明院を建て、後に霊隠寺と並んで西湖の南北にある二大仏教道場のひとつである浄慈寺となった。
  南屏山のふもとには、もうひとつ著名な仏刹として北宋開宝五年(972)に創建された興教寺がある。この古刹は、仏教天台宗山家派の総本山である。浄慈寺、興教寺に加えて付近の中小寺廟が霊隠?天竺の背後の湖上にもある仏寺群と一続きになり、早朝の鐘と日暮れの太鼓の音が鳴り、読経の声が響き、お香の煙とローソ\クの灯が絶えないことから、南屏山は‘仏国山’という別称がつけられ、南屏晩鍾の趣が悠然と具象化してくる。南屏山一帯の山々は石灰岩でできており、山肌には多くの洞穴が空き、山頂の岩壁が壁となって、仏寺の日暮れの鍾が鳴ると、鐘の音の振動がまっすぐ山上に伝わり、岩石、洞穴などにさえぎられて、音波の振動が加速し振幅が急激に増大されて共振作用を起こす。岩石、洞穴が気ままに生みだす音の箱の効果は、共鳴作用を増強させるのである。同時に、鐘の音はさらに同じような周波数で西湖上空にも伝わって、まっすぐに西湖対岸に至る。そして対岸にある火成岩でできた葛嶺に突き当たり、戻ってきた音と重なるのである。
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